口腔顎顔面の神経性疾患
口腔の周辺には三叉(さんさ)神経や顔面神経が広く分布しており、口のなかの感覚や咀嚼(そしゃく)運動、また複雑な顔の表情をつくる機能をはたしています。さらに口の奥のほうには、舌咽(ぜついん)神経や舌下(ぜっか)神経なども分布しています。
これらの神経に関係したさまざまな神経痛や神経麻痺が口腔や顔面に発生しますが、頻度が高いのは三叉神経痛と顔面神経麻庫です。
三又神経痛(さんさしんけいつう)
中枢性の三叉神経障害に関連しておこる真性三叉神経痛と、末梢領域のいろいろな原因によって二次的におこる症候性三又神経痛とがあります。
真性三叉神経痛は、これまで原因不明とされていましたが、最近では、頭蓋(とうがい)内で三又神経が血管に圧迫されておこると考えられています。また、脳腫瘍(しゅよう)が三叉神経を圧迫したり、癒着することによってもおこることがあります。
一方、症候性三又神経痛は、歯や副鼻腔の炎症性病変が原因となります。
【症状】
真性か症候性かにかかわらず、痛みは顔面や口腔の左右どちらかにみられます。三叉神経の三つの枝(眼神経、上顎神経、下顎神経)のどれが関与しているかによって痛みの部位は異なりますが、真性では突然電撃様の激しい痛みがみられるのが特徴です。また、この痛みは短時間でおさまりますが、繰り返しておこります。また、発作は摂食、洗顔、歯磨きなどの刺激で誘発され、特定の部位への刺激が引き金となっています。
一方、症候性のものでは、痛みは電撃様ではなく、範囲や程度もさまざまです。
治療
症候性のものでは、原因を精査し原因疾患の治療を行います。真性では、軽症例に対しては、抗けいれん薬のカルバマゼピンが有効です。薬物療法が奏効しない場合には、神経ブロックが行なわれてきました。しかし、近年では頭蓋内における三叉神経の減圧手術(ジャネッタ手術)が脳神経外科において行なわれ、好成績が得られています。
顔面神経麻痺(がんめんしんけいまひ)
顔の表情をつかさどる神経を顔面神経といいますが、その麻痺により顔の表情の麻痺という見た目の障害をおこすだけでなく、涙腺(るいせん)や唾液腺の分泌障害、味覚低下などもおこります。
【原因】
寒冷刺激、局所の循環障害、ウイルスの関与などがあげられています。また外傷や手術による神経の切断、耳下腺などの炎症や悪性腫瘍によっておこる場合もあります。最も頻度の高いものはベル麻痺で、その原因は確定されてはいませんが、1型単純ヘルペスウイルス感染の関与が示唆されています。
【症状】
額の皺(しわ)が消え、皺を寄せようとしてもできない、瞼を閉じようとすると白目の部分が見えるようになる、上瞼がたれる、口角が垂れる、口笛が吹けない、よだれが垂れるなどの症状がみられます。
治療
治療はビタミン剤、循環改善剤、副腎皮質ステロイド薬、抗ウイルス薬の投与、星状神経節(せいじょうしんけいせつ)ブロック、低周波などの理学療法があります。手術としては顔面神経開放術(がんめんしんけいかいほうじゅつ)、神経吻合あるいは移植術が行われます。